古代壁面に描かれた形の中に輪郭をなぞった様な線描を見ることが有ります。彩色する前に形を確認するための下絵として引かれる線刻と考えられます。16世紀の外壁装飾法グラッフィートは引っ掻いて2重になった層の下の暗い面を出す掻き落とし法ですがここにも線刻は使われました。このような鋭利な物で引かれた線刻は自分の動きを物質として確認することが出来るという素朴な行為です。今回は任意の形が配置されたレリーフの上にフレスコで紺碧の線を引きそれら繋ぐ不定の網目の様に点を結び、線刻の刻印でずれた線の様に関係付けました。それらが見え隠れするように、壁を暗示する色で点描し隠れた・拡散する形や広がりを表現します。
また綿布上の縦長のアクリルで描かれた面は、私たちにとってなじみの深い形です。家具や調度品のように生活空間になじむ装置だった軸物のなごりでも有ります。空間の自律性や奥への空間を思考した何度も重ねられた油彩の表現と違い、水墨画でいえば墨の濃淡やぼかしは大きな表現の要素であり、書の自由奔放な主観的な筆勢の精神力も大いに影響してきたに違いないと考え、これらの要素を意識しつつ今の時間を描き止めました。
古代から長い間壁体に描かれてきたフレスコ、瞬間を和紙に絹本に描き止めてきた伝統。この二つの要素が私の中で存在しています。
谷口 千恵子
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谷口千惠子 略歴
1950 岐阜県生まれ
1974 東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
1974 東京藝術大学大学院美術研究科壁画専攻修了
1993 ボローニャ県立建築職業学校装飾科修了
1992~1994 イタリア国立ボローニャ美術学校留学
個展
1980 スルガ台画廊
1984 ギャラリー射手座
1986 ギャラリー21
1990 ギャラリーオカベ
1994 淡路町画廊
1996 ガレリア・グラフィカbis
1997.1998.2000.2004.2005.2009. ギャラリー21+葉
2002 銀座東和ギャラリー
2011 ギヤラリー1/f
2016 いりや画廊
グループ展
1974 第2回壁画グループ展(‘75.第3回・’77第4回)
1981 外の外三角州展(岐阜県立美術館)/’82.84
1986‘86岐阜現況展(岐阜県立美術館)
1988 現況:4展(世田谷美術館)
1993 エンゼル大賞展ガブリエル賞
1997 WORK7(ぎゃらりい サムホール)/’98.’02
1999 WORK7+2(ぎゃらりい サムホール)/’01 CAPPING展―国際現代美術展(釜山)/’00上海・’01釜山
2014 「 居住する美」東京芸術大学/’ギャラリーイノアック/安田邸
2015 精彩展/’00.’02/(ギンザタナカホール)’03~2015(アートスペースリビーナ)2016.2017 (ヒルトン東京・ヒルトピア)
2017 WORK9展/六葉展(ぎゃらりい サムホール)/’04~2017
パブリックコレクション
東京芸術大学石神井寮/多治見市文化会館/アンツオーラ・エミリア小学校等
○日本美術家連盟・日本建築美術工芸協会会員
谷口千惠子展 ― 軌跡 ―
2018年4月2日(月)-7日(土)
11:30-19:30(最終日-16:00)